月だけを見ている。

ハンカチ拾います。

ロサンゼルスのこと。その2

ロサンゼルスに着いてホッとして初めて空腹に気がついた。なにが食べたい?と聞かれたので、マクドナルド!と答えた。空港を出て外の空気を吸い込んだ時に日本のそれとあまりに違う香りがして途端に実感が湧いた。もうここには私の帰りを待ちわびて癇癪を起こす人も夜中に叩き起こして脅してくる人も私の未来を塞ごうと躍起になる人もいないと思ったら、両手でまるを作って「ワーーー!!!」と叫び出したいほどの開放感に襲われた。自由だった。

 

深夜のマクドナルドには予想に反してそこそこ人がいた。日本でそうするのと同じように私はハンバーガーは頼まず、ポテトとナゲットとシェイクを頼んだ。するとまぁ〜〜〜〜〜違う。ポテトの量もナゲットの大きさもシェイクの甘さもまったく違う。ナゲットなんかちゃんとフライした鶏って感じだったし、興奮もあってものすごく美味しく感じた。初めてのアメリカ、二十歳という年齢、何十時間にも及ぶ長旅。あれを超える深夜のジャンクフードはないと思う。

 

毎日どころか瞬きのたびに発見と驚きと感動が順番にあるいは同時に巻き起こり、いっときも気が抜けなかった。サンタモニカでビーチサンダルを買うためにForever21に入ったらめちゃくちゃデカい犬が店内でお腹を出して店員さんに変わる変わる撫でてもらっていたり(どの店にも入口には犬用の水が置かれていて、犬たちはそれを飲み散らかしたり蹴飛ばしたりしていた)

f:id:nunnun1:20200312174442j:image飼い主に遊ばれるも動じない犬

毎朝行くベーグル屋さんでバナナだっつってんのに毎回毎回バニラシェイクが出てきたり(いまだに発音できない)、様々なチーズケーキがショーケースに大量に並べられてる"チーズケーキファクトリー"という店に通い詰めたり

f:id:nunnun1:20200312174353j:image選べないと言ったらこうなった

メキシコ料理のチャイより甘ったるくてシナモンが強くてだけどチャイとは違うらしい何かにどハマりしたり(horchataという)、人見知りの猫とワガママな犬と大きな庭で力強い太陽の光を燦々と浴びたり。

f:id:nunnun1:20200312174739j:image海と太陽とスケボーでスゴ技連発する若者

 

その間、私は一度たりとも家族や20年間住んだ家、恋人のことすらも思い出さなかった。目の前で起こる出来事だけではなく、肌が丸ごと吸収する空気やその温度、聞く耳と意識をしっかり張り巡らせておかなければ聞き逃してしまう異国の言葉、失敗も不運もすべてを包み込んで笑い飛ばす人々の朗らかさ、それらを取りこぼしのないように1つ残らず掴むためには何かを思い煩ったり悔やんだり懐かしんでる暇はなかった。

 

人との接し方、時間の愛しみ方、誰にも委ねず自分で考えて選択するということ、それに伴う責任、たとえ間違えてもやり直しがきくこと、自分の言葉で自分の考えを伝える誠実さ、そのためには相手の話を理解しようと努めることが大前提であること。そういった本来であれば親や親という役割である人に教えてもらうべきだったことを、私はお世話になったご夫婦や街やお店で出会う人々から20歳にしてようやく学ぶことができた。主体的に人生を楽しむ大人たちを見るのはものすごく楽しかった。生きてきて初めて不安から解放され、生きることにほんの少し希望を見た。