月だけを見ている。

ハンカチ拾います。

葉っぱの緑に水滴が映える、瑞々しいオレンジが光って見える。

忘れられない文章がある。インターネットという海の中で偶然出会った。あの文章に再び出会うために、もしかしたら私はここに漂い続けているのかもしれない。

 


そのブログはいつの間にか消えてしまった。書いた張本人も見つからない。じっくり読む余裕なんてないほど、急かされるように読み進めば進むほど作品としての脅威が心地よく、才に呆気に取られて印象に残ったフレーズをメモもしていなかった。スクリーンショットなんかもちろん残っていない。正真正銘、幻になってしまった。

 


あんなに寂しくて、孤独で、すべてから置いてけぼりにされたような悲しい夏の文章を書く人になんか絶対に出会えないと思う。私には書けない。日常のようでいて生涯で一度も巡り合えないような、救いなんてないのに祈ってしまうような、色鮮やかな花束の対義語のような、夏の日差しに目が眩むような、不幸でなくて楽しくもない、淡々とした文章。

 


今まさに、こんな風に、私にはそれがどれだけ素晴らしいかを言い表す言葉さえ見つからない。並べて文章にするなんてとんでもない。あの文章の色や香りや温度を思う時、自分の非才を思い知らされ、絶対に追いつけないと思うものがある幸せの手触りを知る。その形をなくしたからこそ、ずっと胸と脳に残り続けていることも含めて、ますます夢のようだ。

 


実際、それは夢の話だった。長くはない文章で、ある日の夢について書かれていた。たったの一文も思い出せないのに、私はそのブログのことを思うだけで初めて読んだ時の動揺を思い出せる。

 


激しい羨望があり、静かな諦観があった。嫉妬が渦巻き、果てしない敬意があった。

 


どんな絵の具を混ぜてもあの鮮やかさの純度には及ばないし、どんな素晴らしい調律を持ってしてもあんなに私の心に真っ直ぐに響くことはないだろう。

 


幻の夢の話は、まるで私が見た夢であるかのように、絶望からしか採れない甘い蜜のような気持ちにさせてくれる。あんな文章を書けるようになりたいという渇望を潤すように、私は人知れず何かを書き続け、広大の海の中でたどり着くはずのない光と似たものを作り出そうともがいている。