月だけを見ている。

ハンカチ拾います。

夢の話。

本を作るなら縦書きにするって、ずっとそう決めてた。

 

本を出すってことを決めていたわけではない。それは例えば、小さな子どもが大きくなったらお姫様になりたいと願ったり、戦隊モノのヒーローになりたいと夢見ることに限りなく近い。

 

本が好きだった。本に救われ、支えられてきた人生だった。

 

誰しも心の中に、神社を持っていると思ってる。それは概念としての神社で、お守り、と言い換えても良い。形があるものもあれば、ないものもある。好きなアイドル、何かで入賞したこと、一世一代の大恋愛、一人旅、辛くて仕方ないことを乗り越えた経験、一生懸命打ち込んで何かを成し遂げた自信、大切な人の形見、有言実行の記憶、もう無理だって時に人からかけてもらった言葉。

 

人生はたやすく転落することもあれば、思いがけず好転することもある。そういった時に、普段は静かにしまってある宝箱の中からどの名場面を取り出し、再生に向かうのか。大勝負の直前に祈りを捧げるのは、どの追憶なのか。

 

息ができなくなるような辛いこと、涙が止まらないくらい悲しいことがある度に、「それでもあの時よりはマシだ」と思う『あの時』というものが存在して、そうすると本当に「確かに今の方がずっとマシだな」って素直にそう思う。岩で頭を打ちつけ、内臓を煮られるような鋭い絶望を味わった『あの時』というものに、私は今も生かされてるんだなと思う。それだって私の中の立派な神社だ。

 

おこがましいけれど、私がいつか本を作るなら、読んでくれた人にとってそんな存在になれたら、と思う。丸ごとじゃなくても良い、切り取られたどこかの文章、たった一言、本を開いていた時に対峙していた何かでも、何でも良い。努力が報われなかったり、涙すら出ない時、自分や他者を許し認めることができなかったり、寂しくて眠れなかったりした時に、いつでも訪ねてくれる神社のようなものが作れたら良いなと思う。それが私の救いにもなる。

 

死ぬまでにいつか叶ったら良いな。